森3

今からちょうど3年前、オレが大学4年の頃かな。
ギリギリ単位を取って、就職先が2社目で内定した事もあってかかなり日程が空いた次期がある。
それを利用して別れの最後にサークル仲間と卒業旅行に行くことになった。
本当は25人ほど集まる予定だったのが、就職が忙しいせいか集まったのは自分を含めて9人だけだった。

今回の卒業旅行には中学時代からの友達ノリオ(仮名)って奴がいて昔からよく一緒に悪さしたり、遊んだりした。
性格はすごく単純で切れやすいけど、そうゆう部分では気が合う仲だった。

そして当日、バスに乗って数時間景色を眺めてると甲信越の高い山に重なって、大きな湖とそのすぐ近くに
小さな旅館が見えてくる。
すぐ隣りには最近できたデカいホテルもあって、明らかに目おとりしてしまう。
バスを降りて旅館の玄関前までついた時、ふとあるものが目に入った。
横幅2メートルはある大きな水槽である。

中にはフナが数匹泳ぎまわってて、表面にはタニシらしきものがへばりついてる。
中には砂利や藻も
入ってなくてすごく殺風景に見える。
何故だかそれが異常に気味が悪いのである。
何も客が出入りするすぐ横にこんなでかい水槽でフナやタニシを飼うことはない。
みんなは気づかないかのようにサッサと旅館に入っていった。

オレもそんなことはすぐに忘れて湖や町の観光を楽しむようになった。
温泉に入ったり料理を食ったりで、すっかりいい気分で一日目の夜になった。
男部屋で酒を飲みながら麻雀をやってると、友達のノリオが例の水槽のことに触れだした。

「アレ見た?玄関前の水槽」「あぁ、見たよ。なんか違和感あるよな」

どうやらみんなも気づいてたらしい。
「けど、それがどうした?」とオレはノリオに言った。
「実はさ、オレ前にも昔この旅館来たことあるんだけど、その時は中にエイが飼われてて旅館の目玉的役割してたんだよね。 だから今日来て正直ガッカリしたよ。フナに変わってるんだからさ」  

「なんだ、そんなことかよ~」「意味深げに言うんじゃねーよ」
と、一同大爆笑してさらに盛り上がった。
そして何日か同じように観光が続き最後の一夜になった。
みんないつも以上に酒を飲んで盛り上がった。

9時頃からすでにデキあがってたせいもあって、12時にはみんなダウンして寝てしまった。
起きている奴もほとんど酔いでまともじゃない。
酒が飲めない俺と、酔いに強いノリオだけが二人布団に寝転がりながらトランプをしてた。
「さすがにトランプも麻雀も飽きたな」「今日で旅行も終わりか」
などと しらけ話をしながらだらだらカードを捨ててた。

「どうせ暇だし、二人だけで肝試しでもやるか」とノリオが言い出した。
「ハァ?何言ってんだよ。こんな夜中に湖近くの森でも入るのか?」
「なに、ただ水槽のぞきに行くだけだよ」

「水槽見に行って何が肝試しなんだ?」
「お前知らないだろうけど、暗闇の中で泳ぎまわる魚って気味悪いぜ~、ベタな肝試しよりよっぽど面白いって」
オレは正直ノリオが何を言ってるのかわからなかった。
「とにかくついて来いって、どーせ暇なんだから」 面倒くさかったけど
断る理由も見つからないので暇つぶしに部屋を出た。
深夜の旅館は想像以上に静かだった。非常口と自販機のあかりを頼りにそーっとスリッパで1階に下りた。 

大広間に出ても、カウンターでさえ薄暗い。もちろん誰もいない。
それからようやく外に出て水槽の中をのぞきこむ。
「ん、何これ、中身違うじゃん」よく見ると、水槽についた緑色の蛍光灯に反射して大きなウツボが中で泳ぎまわってる。
周期的に魚の中身が入れ変わるらしい。
確かに信じられないくらい不気味で気持ち悪い。
真っ暗な中この水槽の中の魚だけが緑色に光って泳いでる。

「ここまで静かだと、誰かに見られてるような気がするな」と言った時、後ろの方から「ガツン」と何かがぶつかったような音がした。
振り返っても誰もいない。

怖くなって2人でいっきに階段を上がって2階まで戻った。
部屋の中はさっきと同じで電気をつけたまま数人が寝てた。
結局その後何もなく卒業旅行が終わって、その時のこともくだらない笑い話で終った。
今思えばほんとくだらないことやったなと思った。


それから数ヶ月してオレも働き始めたころ、家のポストに封筒が届いてた。
中を見るとそれは卒業旅行の写真だった。
それはガイドが撮ったもので、湖や町の風景をバックに自分や仲間の姿が写ってた。
ほんと懐かしいなと思いながらゆっくり写真をながめていった。 

「あれ?」 
いろんな風景が写っている写真の中で一枚だけ奇妙なものを見つけた。 
でも確かに見覚えがある。


真っ暗な中で緑色に光る魚と、光を遮るふたつの影が映っていた…。

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